しかし、フルバージョンはなかなか公開されず、
op版公開から半年が経った2019年4月5日、
そして同年7月、初出から約10か月後、『aurora arc』の発売により、ついに、ようやく、
『aurora arc』ではinstrumentalに続く2曲目に位置し、
本楽曲とつながりの濃い(であろう)からくりサーカスは全く読んだことがないので
さて、今一度歌詞全体を御覧なさい。
心は眠れないまま 太陽の下 夜の中
つぎはぎの願いを灯りにして
2.何も要らない だってもう何も持てない
あまりにこの空っぽが大き過ぎるから
3.たった一度だけでも頷いて欲しい
鏡の様に手を伸ばして欲しい
その一瞬の 一回のため それ以外の
時間の全部が 燃えて生きるよ
4.僕の正しさなんか僕だけのもの
どんな歩き方だって会いに行くよ
胸の奥で際限なく育ち続ける
理由ひとつだけ抱えて
いつだって 舞台の上
5.思い出になれない過去 永久リピート 頭ん中
6.謎々解らないまま 行かなくちゃ 夜の中
今出来た足跡に 指切りして
7.同じ様な生き物ばかりなのに
どうしてなんだろう わざわざ生まれたのは
8.世界が時計以外の音を失くしたよ
行方不明のハートが叫び続けるよ
あっただけの命が震えていた
あなたひとりの 呼吸のせいで
9.いつかその痛みが答えと出会えたら
落ちた涙の帰る家を見つけたら
宇宙ごと抱きしめて眠れるんだ
覚えているでしょう
ここに導いた メロディーを
10.耳と目が記憶を掴めなくなっても
生きるこの体が教えてくれる
新しい傷跡に手を当てるそのたびに
鮮やかに蘇る懐かしい温もりを
11.世界が笑った様に輝いたんだよ
透明だったハートが形に気付いたよ
どこに行ったってどこにも行かなかった
あなたひとりとの呼吸のせいで
12.たった一度だけでも頷いて欲しい
どんな歩き方だって会いに行くよ
あっただけの命が震えていた
理由ひとつだけ 虹を見たから
いつだって 舞台の上
道中でこの三点に殊に注目し直すことはありませんが、時々は確かにと思えるように書いていきます。では歌詞を最初から見ていきたいと思います。
1.夜明けよりも手前側 星空のインクの中
落として見失って探し物
まず場面提示です。聴者はこの場面を想起してこの段落を、
ここで、
「落して見失って探し物」ですが、先申した月虹の魅力を構成する三要素の一つ、文章単位での巧妙な歌詞の一つです。
これは解釈が時系列によって二つに分かれると思いますので、その選択について。
ⅰ)以前持っていたものを落して見失った結果、探し物になった。
ⅱ)探し物 の追加説明としての落して、見失って。すなわち落す、見失う、
語の順番を素直に受け入れるならⅰが自然ですが、ここで私はⅱ
「
「
「その羽で飛んで来たんだ,羽根は折れないぜ、
今回は矛盾を回避するために、探し物の定義を拡大します。
心は眠れないまま 太陽の下 夜の中
つぎはぎの願いを灯りにして
最初に夜明けよりも手前側という場面提示がありましたが、
心は眠れないまま、という修飾は焦燥感を作り出しています。
「眠る」という表現は、夜に呼応して引き出されたものであり、
つぎはぎの願いというものがいよいよよくわからんのですが、なんでしょうか。先登場した探し物は願いとも解せなくはない旨を申しましたが、見失ったりしてはどうにも灯りにはならなそうです。しかし、”継ぎ接ぎ”の願いであれば、一部見失ったり、落したりしても、また新たに獲得したりしたような願いとして解釈できそうです。すなわち、探し物=つぎはぎの願いとしてみようというわけですが、あんまり根拠がありません。
ところで月虹には、僕を動かす要素となりそうな語が頻出します。
- 探し物
- 空っぽ
- つぎはぎの願い
- 正しさ
- 理由一つ
- ハート などなど
今までの藤原の詞の通例と少し違うのは、僕は物理的にも心理的にも迷子ではないということです。行くあては灯りによって示され、心理的にも焦燥感を抱えつつ何か固まった意思があります。ここが月虹の、他楽曲と趣の異なるところであり、今後それが顕著になっていきます。
第1段落のまとめ
- 夜の場面提示
- 焦燥感のあらわれ
2.何も要らない だってもう何も持てない
あまりにこの空っぽが大き過ぎるから
第二段落は印象的な歌詞です。この詞には強い我が認められます。かなりエゴな主張です。与えられる前提で、そこで何も要らないというのは、ただの主張よりも極めてエゴイズムです。もっといえば幼児的です。邪推すれば、藤原の少年性が、いままでと違った形に、すなわち切望感を高めるように適用されて、月虹の独特の魅力を作り出しているともいえましょう。
- "僕"は過去に何か失って空っぽを得た。
- "僕"は空っぽに埋まるもの以外持てない。
3.たった一度だけでも頷いて欲しい
鏡の様に手を伸ばして欲しい
その一瞬の 一回のため それ以外の
時間の全部が 燃えて生きるよ
- "僕"は自己への肯定を得るために、絶体絶命に生きている。
- 強いエゴから切なさのあらわれ。
どんな歩き方だって会いに行くよ
胸の奥で際限なく育ち続ける
理由ひとつだけ抱えて
いつだって 舞台の上
- 僕"を動かす要素(正しさ,空っぽ,...)は全て同一。
- 空っぽ(の原因)=忘れられない過去=思い出にできない忘れ物="僕"を動かす要素
ここにも、横の歌詞利用の構造が見られます。「まま」と「夜の中」です。2番では、太陽の下が「行かなくちゃ」になり、より焦燥感が増すとともに、聴者へ提示する場面が明確に「夜の中」限定になります。解決(夜明け)への展開を進んだとも言えます。
謎々というのは無論要素の一つです。謎々自体が探し物であり、その答えが正しさであり、理由一つであります。謎々であるということに注意しましょう。謎々は常に頓智がきいた答えがあるものです。謎々の内容については後に登場しますので、その時考えましょう。
「今出来た足跡に指切りして」において、全ての足跡ではなくて、今出来た足跡に限るのは、古い足跡は過去そのものであり、思い出になれない(忘れられない)ので決別できないからであります。指切りする理由としては、今現在の、要素によって動かされている僕は、「時間が燃えて生きている」ので、空っぽ(を作った要因)の過去とは異なり、今すぐ出来た足跡には決別することができます。というより決別していくほかないほど、空っぽが大きいのです。
- 焦燥感の増長 解決への構成展開
7.同じ様な生き物ばかりなのに
どうしてなんだろう わざわざ生まれたのは
- 月虹における最大の問題(なぞなぞ)は「自分の存在価値は何か」そしてその発見こそが"僕"における解決。"僕"は"あなた"にその発見を求めている。
8.世界が時計以外の音を失くしたよ
行方不明のハートが叫び続けるよ
あっただけの命が震えていた
あなたひとりの 呼吸のせいで
- あなた一人からの自己存在の肯定のために絶体絶命に生きる僕の我の表現
9.いつかその痛みが答えと出会えたら
落ちた涙の帰る家を見つけたら
宇宙ごと抱きしめて眠れるんだ
覚えているでしょう
ここに導いた メロディーを
- あなたからの肯定の獲得で心が休まる
- 自分を動かした要素を産んだものの出現
10.耳と目が記憶を掴めなくなっても
生きるこの体が教えてくれる
新しい傷跡に手を当てるそのたびに
鮮やかに蘇る懐かしい温もりを
- 解決への第一歩
- "僕"は傷跡=生の証拠が思い出を蘇らせることを発見する。
透明だったハートが形に気付いたよ
どこに行ったってどこにも行かなかった
あなたひとりとの呼吸のせいで
ここで明確な解決が行われた証拠が詞に表れます。まず、世界が笑ったように輝きます。まるで、世界が自分の存在を認めたように微笑んでいる感じでしょう。つまり"僕"は終に世界から肯定されます。
- 謎々の解(各人は特有なる思い出を持つ=多様→生の意味がある)を得る
- 自己存在を確立する(解決)
あっただけの命が震えていた
理由ひとつだけ 虹を見たから
いつだって 舞台の上
- 月虹=夜の中で新しい傷跡から蘇ったあなたとの思い出
- 夜明けを迎え、生きていく"僕"。